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  • 執筆者の写真成瀬 紫苑

2月*二村 裕貴

二月に入ると、空気がうわ浮いていた。男連中、みんなそうだ。


「おれ、甘いもん結構好きなんだよな〜」


「最近糖分取ってねぇから、結構いらいらしやすくて」


 わかりやすすぎる。男は馬鹿だから露骨なんだ。


 かくいう僕も、妙にソワソワしてしまった。

 この時期は、どうしても仕方ない。


「おまえ昨年、何個もらった?」

 幼馴染みの巧也は、嬉々として問う。


「一個だけど」

 僕は、顔を引き攣らせて答える。


「そっか〜、まぁ、ひとつもらえるだけでも進歩だな」


 巧也は、どこか得意げに言う。彼は二つ貰ったらしい。


 相手が、母親と姉だということは隠しているようなので、僕も口にしないでいた。


「でも、この時期になると、やっぱソワソワしてしまうよな〜」


「否定はしないさ」素直に答える。


「中学校では初めてだし、今年はどうだろな〜」


 正直、僕も気になっていた。

 中学校になって人数が増えてから、話す機会が減った。最近は、ほとんど顔も合わせていない。


 昨年まで毎年くれていたが、環境の変化を機に交流がなくなってしまうのではないのか。 



***


 今日はバレンタイン。緊張感のあるまま学校に辿りつく。


 下駄箱を開けるが、空振りだ。

 休憩時間も、誰も来ない。

 給食の時間も、何もなかった。


 期待していたものの、仕方ないよな、と溜息を吐く。年齢的に子どもであるが、もう子どもではないのだ。


 肩を落として、家の前まで着く。

 

「ゆ、裕貴……」


 か細い声が聞こえる。


 振り向くと、そこには今日、一番会いたかった顔があった。




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