• 成瀬 紫苑

恋愛×ゲーム「親友と出会った日」

こちらは、「恋愛×ゲーム」の主人公、唯が親友菜々美と出会った時のおまけ小説です。

本編を補足する内容となっておりますので、本編読後に楽しんでいただけましたら嬉しいです。



***



唯が高校二年の春、クラス替え時の話。



「誰もいないし……」


 私は閑散とした教室に恐る恐る足を踏み入れる。見慣れない教室内で妙に心が騒ぐものだ。黒板に座席表が掲示されていたので、自分の名前を探した。


 座席は名簿順のようで、私の苗字は「風嶺」であることからも、座席は教室ドア側から二列目の前から三番目という、前後左右他の人の座席がある、なんとも落ち着けない場所だった。

 小さく息を吐きながら、自分の名前の書かれている座席に腰を下ろした。


 うちの高校は、二年からクラス替えがない。体育祭や学園祭、修学旅行などこれから行われるイベントはこのクラスで取り組むことになる為、今回のクラス替えはかなり重要なものとなる。

 しかし、二日前に学校のサイトで発表されたクラスの割り振りを見てから今日まで、まともに眠ることすらできていなかった。


 一年の頃は、幼馴染のリョウヘイと同じクラスだったので、特に問題なく過ごせていた。だが今回は別々だ。それに、彼と同じクラスだったことからも、他の人との交友関係もまともに築けていなかったのだ。休憩時間に軽く話せる程度の友人も、皆クラスが別れてしまった。

 発表された自分のクラスに記載されている名簿を見ても、数人存在を知っている人がいるな、レベルの内容だった。

 

「胃が痛い……」

 私はお腹を擦る。緊張が無意識に身体に表れていた。


 時計を確認すると、針は七時十分を指していた。あまりにも落ち着かないので、早々に家を飛び出してきたものの、まだ朝のホームルームが始まるまで一時間半以上ある。朝練があることから教室は開放されていたが、誰もいなくて当然だ。



 突如、ガラッと勢いよくドアが開く。私はわかりやすく肩を震わせた。


「あ、あれ? 君も朝練?」


 野球の白い練習ユニフォームを着用した大柄な青年が、少し驚いたような顔で私を見る。こんな朝早くに人がいるとは思っていなかったのだろう。


「いや、えっと……ただ早く学校に着いてしまって……」

 私は両手で手を振りながら恐々弁解する。


「ははっ、まだ一時間以上あるのに、随分早いな」


 大柄の青年は軽やかに笑いながら、教室内に足を踏み入れる。苗字は遅い方なのか、私とは対極の窓側の方へと颯爽と歩いていく。私は恥ずかしくて身を縮めた。

 青年は自分の座席であろう中を漁り、ファイルを取り出すと、私に顔を向ける。


「同じクラスなんだね。俺、速水瞬。これからよろしくな」


「わ、私は風嶺……です…………」


 おずおず答えると、青年は少年のような笑顔で軽く手を振り、足早に教室を後にした。

 

「すごい、爽やかな人……」


 私はポツリと呟く。先ほどまで感じていた胃の痛みも少しだけ緩和されていた。


 茫然と彼の出て行ったドアを眺めていると、再び勢いよく開かれた。私はまたもや大きく肩を震わせる。


「あっ嘘! 負けちゃった!」


 栗色で緩く巻かれた髪にピンク色のカーディガンを纏った彼女は、私を見ると目を見開いて叫んだ。

 一年の頃に廊下で友人と談笑する場面をよく目にしていたことから、彼女の姿や通る声には覚えがあった。


「ま、負けた……?」

 彼女の言葉の意味がわからずに、反射的に問いかけていた。


「一番に教室に来ようって思って、頑張って朝早くに起きたんだよ!でも、今日肌のコンディションが最悪でさ~」


 化粧に時間がかかった、と彼女は悔しそうに唇を突き出しながら、とぼとぼ黒板に近寄る。

 彼女は黒板に掲示された座席表を指差しながら確認し、くるりと振り返って場所を確認する。数秒すると、彼女と目があった。


「あ、あたし、あなたの前だ!」


 彼女はおっと笑顔になると、軽いステップで座席へと寄る。机に鞄が置かれると共に甘い香りが舞った。


「あなたって、確か亮平くんの彼女だよね?」


 彼女は椅子に腰かけると、目を輝かせて私に問う。私は目を見開く。


「ち……違う……! 亮平とはただの幼馴染で…」


「あ、そうなの?そう聞いてたから」彼女はあっけらかんと答える。


 まさかそのように認識されているとは思いもしなかった。私は特に問題ないものの、彼にまで迷惑をかけるのは悪い。

 また会った時にでも謝罪しよう、と心に誓う。


「だから、メガネちゃんの告白も断ったんだって思ってたからさ~」

 彼女は人差し指を顎に当てて呟く。私は静止する。


「……何で、知ってるの?」


「あたしはそういった話が大好きだから」


 彼女は満面の笑みでピースする。情報元がどこかは把握できないものの、毒気のない彼女の笑顔を見ていると許せるような気分になるものだから不思議なものだ。


「でも…………なんで一番に来ようとしてたの……?」


 私は話題を変える為にも、恐々尋ねる。派手な外見と直球で言葉を投げる彼女に無意識に怖気つく。


「だって一番に来たら、教室に入ってくる人の顔を一人ひとり見られるでしょ?あたし、自分の名前しかクラス確認してなくってさ。誰が来るのかな~ってドキドキできるじゃん」

 彼女は歯を見せて笑う。


「これから二年一緒なんだからさ、どんなクラスなのか楽しみで」


 あ、この人は何か好きだな、と素直に思った。

 彼女の外見や性格からもカースト上位生であるのは確実だが、私のイメージしている誰かを差別したり悪く言うような女子特有のジメジメとした空気が彼女からは全く感じられない。


 私と正反対の彼女に無意識に惹かれていた。


「でも、二番か~。なんか悔しいな」

 彼女は悔しそうに口を曲げて私を睨む。反射的に身体が強張るものの、ふと思い出す。


「いや、私よりも先に来てた人がいるから、私が一番じゃないよ」


「何!? 許せない! あとでそいつはお呼び出しね」


 彼女は激しい剣幕で声を上げる。冗談か判別はつかないものの、私は先ほどの爽やかな彼に責任転嫁してしまったことに内心謝罪した。


「それよりもさ、次。どんな人が来ると思う?」


 彼女はコロッと表情を一変させると、ニヤニヤした顔で私に問いかける。彼女に伝染するように私もドアの向こうからどんな人物が現れるのかドキドキしていた。


 お互い、自己紹介をすることも忘れたまま、次はイケメンだ、次は大人しい女の子だ、とあーだこーだと笑いながら言い合った。


 そのお陰で、今では胃の痛みもすっかり消えていた。



『恋愛×ゲーム』番外編「親友と出会った日」――――――完。

(初出:2020/12/06)