• 成瀬 紫苑

恋愛×ゲーム「それぞれのクリスマス」

こちらは、「恋愛×ゲーム」に登場するキャラクターたちの本編その後のおまけ小説です。

本編を補足する内容となっておりますので、本編読後に楽しんでいただけましたら嬉しいです。



***




メインキャラクター達のクリスマスの過ごし方を描いた日常回



【Side 速水】


 紫野学園高校から徒歩五分に位置する、元野球部副主将の田中一樹(タナカ カズキ)の家は、広い庭が備わり、寛容な両親という恵まれた環境からも、現役時代から部員の溜まり場としてよく利用されていた。

 今年もクリスマスは、田中家で野球部部員が集まっていた。

  

 玄関では星やクーゲル、ジンジャーマンといったモチーフを手に取りツリーを装飾する一年生。一階リビング内では、赤、白、緑といったカラーを中心に壁に装飾を施し、出来上がった料理を机に並べる二年生。キッチンでは、調理本片手に唐揚げやポテト、サラダといった料理を行う女子マネージャー。広い庭では、キャッチボールをしながら今か今かと待ちわびる三年生の姿が見られる。


 各々騒ぎながらも、着々とクリスマス会準備が進められ、「そろそろ始めようか」と一樹が声をかけたところで、玄関のドアが開く。


「お疲れ様」

 

 キラキラのモールで装飾されたリビングのドアから、速水が顔を覗かせる。頭や着用しているダウンには、白い粉雪が舞っていた。


「あ、瞬。やっと来た」


「ごめんね。ちょっと、先生に呼び出されてさ」

 速水は申し訳なさそうに頭を下げる。


「ぬけがけかと思ったぜ」

 部員の一人が唇を突き出して寂しそうに答える。


 その言葉を聞いた速水は、「そうだったら、良かったんだけどね」と苦笑しながら、ダウンを脱いで近くのハンガーにかける。何度も訪れたことで、彼にとっても馴染みの家となっているようだ。


 速水は、「あ、そうこれ」と所持していた紙袋を一樹に差し出す。一樹は、「このサンタのパンを見ると、クリスマスだなって思うんだよな」と紙袋からパンを取り出しながら上機嫌に言う。


 無事、元主将も到着したことにより、クリスマス会が開始される。



 さっそく料理をほおばりながら各々交流を楽しみ、リビング内の大型テレビから流れる毎年開催されている漫才スペシャルによって、陽気な空気が漂っていた。


「それにしても、今年もたくさん集まったな」

 速水は、から揚げをつまみながら一樹に声をかける。


「それだけ、虚しい奴が多いってことだろ」

 一樹はジュースに口を付けながら呟く。「これぞ、枯れ木も山の賑わいってやつだ」


「酷い言われようだな」速水は苦笑する。「でも、毎年悪いな。おまえん家、広いからさ」


「全然。俺も普通に楽しいし」

 一人で過ごすよかマシだわ、とどこか投げやりに一樹は言う。


「でも今年で最後かもな。さすがに大学生になってまで、集まることはないだろ」


「もし、来年も一緒に過ごす人がいないと、どうしたらいいかな?」

 速水は自嘲気味に尋ねる。


「ばかいえ。おまえに彼女が出来ないわけないだろ」


 一樹は何言ってんだ、といった調子で答える。「万が一、おまえを振るような女がいたら、俺が説教するわ。こいつの何が悪いんだってな、と」

 一樹は胸を張って宣言する。


 実は振られたばかりなんだけどな、とは言えずに、速水は持参したサンタのパンを手に取る。


「でもさ」速水は、パンにかぶりつきながら言う。「枯れ葉の方が、火は燃えるもんだろ」


 速水が投げやりに伝えると、一樹は「それもそうだな」と笑顔になった。


 じゃ、ビンゴ始めるか、と一樹が呟いたことで、速水は壁から背を起こした。



***



【Side 楽斗原】


 週末の商店街は家族やカップルで溢れ、あちこちに施されたサンタやトナカイの装飾、軽やかなベルの音と子どもの陽気な声で奏でられる曲で、クリスマス色に染まっていた。


 お祭り当日、ということで、この商店街で買い物をして溜まるスタンプで、クリスマスプレゼントと称したくじ引きができる、といったイベントが開催されていた。


「ヘイ! そこの付き合って二年ほどの、マンネリ化してそうなカップルさん!」


 そんな突拍子もない声が響き、周囲の人々は目を丸くする。

 私たちのことか?と、声の発生源と目が合っている男女は、驚いた顔で自身を指差す。


「こんな広い世界の中で、お互いのことを好きになれることは奇跡っすよ! そんな奇跡を祝福する今日、という特別な日くらいは、ケーキの中の元祖、といえばの、うちのショートケーキとご一緒に、初心に戻りませんか!?」


 サンタ服を身に纏った赤髪の青年、楽斗原は、八重歯の覗く無邪気な笑顔で饒舌に勧める。

 そんな彼を、店主は孫を見るような目で見守り、店主の息子はハラハラした面持ちで見張る。


「なにこの子。面白いね。ねぇ、買っていかない?」


 マンネリ化してると言われたであろう男女のうちの女性は、特に気を悪くすることなく男性に提案する。


「え、でも今からディナーに……」男性は嫌悪感が滲む顔で答える。


「この子の言う通り、マンネリ化してるのは事実だしさ。初心に帰ろうよ」


「わ、わかったよ……」


 男性はやりずらそうにポケットから財布を取り出すと、厳しい目で楽斗原を睨む。


「店長! ホールひとつ!」

 しかし彼は、男性の視線に気づくことなく店内に振り返り、声を上げる。


「はいよ。ちょっと待ってね」店主は笑顔で梱包作業に取り掛かる。



「おまえ、髪赤いんだから、帽子とかいらないだろ」 


 店の前を通った小学生男子軍団の一人がそう叫ぶと、楽斗原の被っているサンタ帽を奪って走り出す。


「あっおまえ! 何するんだ!」 

 服汚したら弁償なんだよ、と楽斗原は焦燥気味に子どもを追った。


「彼のおかげで、ここ数年で一番売り上げが良いよ」


 ケーキの会計を終わらせた店主は、楽斗原の背中をしみじみとした目で追う。


「心臓が持たないけどな……」店主の息子は引き攣った顔で呟いた。



***



「二日間、お疲れさま」


 店主は、にこにこと笑いながら、クリスマスバーレルを机に置く。そこから取り出されるチキンやケーキに、バイトたちは目を輝かせる。


「あー! これCMでよく流れてるやつっすよね!」


 その中でも一番、目を輝かせていたのは楽斗原だった。

 彼は、「クーリスマスは今年もやってくる〜」と口ずさみながら、顎につけていた白ヒゲを外す。


「たくさん食べてね。特に君のおかげで、今年は例年以上に数が出たんだから」店主は上機嫌で声をかける。


 着替えを終えたバイトたちは、さっそく手を付け始める。


「時給もいいし、ご飯も食えるし、最高の環境っすね。この時期だけなのが惜しいところっす」

 楽斗原は、チキンを口いっぱいにほおばりながら感想を述べる。


「君みたいな子には、ずっといてもらいたいんだけどね。この時期以外は、人手を雇えるほど余裕もなくてね」

 店主は少し申し訳なさそうに弁解する。


「また、来年も来るっすよ!」

 楽斗原は胸を張って答える。


「本当は、バイトに入れない状況の方がいいんじゃねぇの」

 店主の息子がニヤニヤした顔で声をかける。


「それは、少し困るねぇ」と店主は寂しそうに笑う。


「どういう意味っすか?」


 何のことかを理解していない楽斗原は、ポカンとした顔で彼らを見ていた。



***



【Side 玲央】


 絢爛豪華なシャンデリアが飾られ、ムードのある間接照明が照らす店内では、ヴァイオリンの生演奏が静かに響いていた。

 高層ビル最上階の窓の外に広がる夜景は、通常の人では中々目にすることができない、格別な光景のものだ。

 

 そんな格式高いレストランも今日は貸切。

 店頭に掲げられた予約札には『白金様』と記載されていた。


「おいしい? 明日香ちゃん」

 玲央は頬杖をつきながら、目前で黙々とサラダを口に運ぶ桃山に尋ねる。


「うん」

 桃山は真顔で淡々と答える。しかし、僅かに口角が上がっていることからも喜んでくれているのだな、と玲央は実感して目を細める。

 そんな彼をオーナーは一瞥して、続くメインの準備をするように、と厨房に声をかける。


 財閥の息子の玲央は、毎年クリスマスにこの店を利用しているが、今年は例年と違っていた。

 以前までは、ディナーコースの予約のみで、連れて来る彼女も、彼と同等の敷居に位置するような人物と見て取れた。そこに彼の感情は感じられずに、ただ決められた行事を形式に則って行動しているように、オーナーの目には映っていた。


 だが今年は、料理の内容から照明、座席に細かく指示を出し、生演奏をするヴァイオリニストも彼が指名した人物を雇った。何より驚いたのが、貸切にしてくれとの申し出だ。

 一体、どんな人物を連れてくるのかとオーナーは気になっていたが、当の彼女は、美人ではあるものの、特に位の高い者には見えなかった。


 高校生で、お酒は提供できないにも関わらず、彼がここまで拘った理由。

 そこには、桃山への感情の強さが表れていた。

 

「明日香ちゃん。これ、プレゼント」


 玲央は丁寧にラッピングされた小箱を差し出す。純白の箱にシルクのリボンのあしらわれた、外箱からも高価そうな品物だ。

 桃山は、かしこまった態度で箱を受け取る。


「明日香ちゃん、時計つけてないでしょ。これから必要になることもあると思うからさ、よかったらそれ、使ってよ」玲央は目を細めて説明する。


 桃山は、慣れない手つきで外箱を開けると、シルバーのチェーンベルトがきらりと光る。時計盤には、小さくて輝く石が埋め込まれており、シンプルながらも高級感が漂っていた。


「た、高そう……」


 桃山は、僅かに強張った顔で呟く。あまりにも高そうな品に、さすがに桃山の顔にも変化が現れた。

 しかし玲央は、そんな彼女の反応も読んでいたのか、「俺が渡したかっただけだから、明日香ちゃんは気にしないで」と肩を竦める。



 桃山は、しばらく考え込むと、鞄を漁って何かを取り出して玲央に差し出す。

 差し出された品を受け取って、中を見た瞬間に玲央は目を丸くする。


「手は、大事でしょ……」桃山は不愛想に呟く。


 中に入っていたのは、手袋だった。

 毛糸で編まれた店でよく見かけるような品だが、玲央ははたと思う。


「もしかして、明日香ちゃんの手作り……?」


 玲央は恐る恐る尋ねると、桃山は僅かに頬を赤らめて視線を落とした。玲央は顔を上に向けて天を仰ぐ。

 これが、お金に買えない価値ってものなのだろう。


「はーずるいよ~。ずるいよ、明日香ちゃんは」


 玲央は、観念したように何度も呟く。

 何のことか理解できてない桃山は、真顔のまま首を傾げた。



 幸せそうな二人に感化されたのか、ヴァイオリニストの演奏も、力強い音色となった。



***



【Side 唯】


 クリスマス期間限定で開催される、街のクリスマスマーケット。街全体が総力を挙げて作り出すこの空間は、格別のものだった。

 いつもは目もくれない道路脇に並ぶ木々も、今日は煌びやかな電飾が施され、店の壁にはサンタやトナカイといったモチーフがあしらわれている。

 普段とは違う眩い光景に、唯の胸は高揚していた。


「すっごい、人がたくさん……」


 唯は周囲を見回しながら言う。マーケット内には、男女カップル中心にたくさんの人で溢れていた。


「平日だからまだマシだろ。土日となりゃ、まともに堪能することもできねぇもんだ」


 唯の隣に歩く亮平は、寒そうに顔をマフラーにうずめながら答える。


 今は冬休み。受験も済み、無事合格したことで、後は高校生活を満喫するだけとなっていた。

 マーケットは、クリスマス期間は毎日開催されていることから、亮平の提案で二人は平日に訪れていた。


 普段は待ち合わせ場所でよく利用されている街の広場も、今日は屋台が出展され、右手では大道芸が行われ、左手では電飾モニュメントの展示がされている。

 あと数分でプロジェクションマッピングがされるとのことで、唯と亮平は、目的の建物前の階段に腰を下ろした。


「スープの温かさが身に染みる……」

 唯は、購入したコーンスープで暖を取る。


「さすがに、今日は寒すぎる」亮平も白い息を吐きながら呟く。


「ごめんね。寒いのに、ずっと気になっててさ」

 唯は申し訳なさそうに謝る。


 このマーケットは昔から街で開催されていたことから、唯も存在は知っていた。屋台やイベントがたくさんで楽しそうだなとは思いつつも、恋人とは無縁の生活を行っていたことから、彼女にとっては近寄りがたい場所となっていたのだ。


 亮平は唯を一瞥すると、「ん」と手を唯に差し出す。

 突然の行動に、唯は意味が理解できずに首を傾げると、亮平は眉間に皺を寄せて、無理矢理唯の手を握った。


「りょ、亮平……?」


「俺は寒いんだ」


「でも私の手、冷たいでしょ?」


「外気に触れるよか、マシだ」


 よくわからない理屈だが、きつく握られた手から生じる体温により、先ほどまで冷えていた唯の指先は徐々にほぐれていった。

 唯は恥ずかしくなり、顔を下に向ける。


「何か、恋人って感じする……」


「おまえ、まだ幼馴染が抜けてねぇだろ」


 亮平は顔を歪めて言う。唯は口籠り「ごめんなさい……」と小さく呟いた。


「ねぇ、ずっと聞きたかったんだけどさ」


「何だよ」


「亮平って、いつから私のことが好きだったの?」


 直球の質問に、亮平は「正気か?」と問いたげな険しい顔を唯に向ける。


「だって、やっぱり気になるし……」唯は怖気つきながらも、好奇心の混ざる目で答える。


 亮平は、長くて白い息を吐くと、「例えばだ」と顔を背けて切り出す。唯の顔は曇る。


「おまえは肉を食うとき、白米が欲しいと思う感情を理屈で説明できるんか? 肉だけじゃねぇ、普段の料理を食う時だってそうだ。基本、白米はどんな料理でもあってほしいと思うもんだろ。日本食だから、昔から食ってるからは理に敵わねぇ。それとおんなじだ」

 亮平はぶっきらぼうに答える。


「私は白ご飯なんだ」唯はむっとした顔を向けるも、ふと表情を変える。「でも、亮平にとったら私は、昔から常に必要な存在だったってわけだ」


 唯は満足気に呟くが、亮平は聞こえていないのか反応を示さなかった。



 もうすぐ始まるプロジェクションマッピングの為に、唯と亮平が座る階段の周囲にもたくさん人が集まってきた。


 亮平は、「来年」と不愛想に呟く。


「来年?」唯は素朴に反復する。


「どこ行くか、考えておけ」


 亮平のその言葉に、唯はポカンとする。


「来年だけじゃなくても、再来年、五年後、十年後まで。決めたなら紙にでも書いておけばいい」


 亮平は相変わらず目を合わせないまま、ぶっきらぼうに答える。


「変わらねぇものだって、あるんだよ」


 その不愛想な言葉に、唯は頬が緩む。



 はらはらと白い雪が舞う。冷気の孕んだ風が吹く度に身が凍えるほど、今日の気温は低い。

 だが、今では外気の冷たさを感じないほどに、唯の心は満たされていた。


 いまだこちらを見ようとしない彼に唯は、「来年は神戸でやってる、あの建物みたいなのが光るところに行きたいな」と提案した。



『恋愛×ゲーム』番外編「それぞれのクリスマス」――――――完。

(初出:2020/12/23)